日本中央銀行デジタル通貨(CBDC) - 日本銀行が概念実証を完了し、CBDC実証実験を開始 - Japan Central Bank Digital Currency (CBDC) – Bank of Japan Completes Proof of Concept and Begins Pilot for Japanese CBDC

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日本銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する2年間の概念実証(proof-of-concept)リサーチを完了し、現在、実証実験(パイロット・プログラム)を開始している。これにより、日本は、CBDC開発の実証段階に進んだ世界有数の経済国のひとつとなった。金融専門家は、2030年までに5兆ドルのCBDCが最大40億人に流通すると予想している。世界第3位の経済大国として、デジタル円が採用される可能性は、世界の金融システムやデジタル資産金融技術の進展に大きな影響を与えるだろう

    I. 中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?

日本の大きな進歩の意味を理解するためには、中央銀行デジタル通貨とは何かを理解する必要がある。 CBDCとして知られる中央銀行のデジタル通貨は、「中央銀行の債務を表す」「中央銀行が発行する法定通貨建てのデジタル通貨」である。2 言い換えれば、CBDCは「国の主権通貨をデジタル化したもの」である。3

CBDCは、「(発行する)政府の「全面的な信頼と信用によって裏付けられた」「電子コインまたは口座」を発行することによって運営される。4 CBDCの価値と所有権は、台帳として知られている「発行と取引の履歴の維持」に基づいている。5 代替的なモデルが存在する一方で、6 「多くの主要なCBDCの国内実施は、中央銀行がデジタル取引を監視し、円滑化するために中央集権型台帳で行われると予想されている」。7

これにより、CBDCは、暗号通貨と従来のデジタル決済手段の両方とも異なるユニークなものとなる。8 仮想通貨は、分散型台帳技術(DLT: Distributed Ledger Technology)に依拠するブロックチェーン・ベースのデジタル資産であり、デジタル・データベースは「中央集権を介さず、分散型のネットワーク参加者によって独立して保持・更新される」。9 また、クレジットカードのような伝統的な「デジタル決済手段」は、中央銀行ではなく「民間機関の債務」である。10

    II. 日本のCBDC

日本銀行では、信頼される機関や国民の協力を得て、リテールおよびホールセール向けのCBDCを開発している。2020年10月にアプローチを定義し、2年間の試験運用を行ってきた。日本銀行は、デジタル円の普及を促進するため、追加的な機能をテストし、信頼される仲介業者を取り込むために、現在3年間の実証実験11を開始した。

        a. 概念実証 (Proof of Concept)

この2年間の試行期間は、2つの概念実証フェーズで実施された。12

概念実証フェーズ1は2021年4月から始まり、2022年3月にかけて行われた。13 日本銀行がCBDC 台帳に「複数の設計案を用いた実験環境」を構築し、「その基本機能が適切に処理されているかどうかを検証した。14 検証は、中央集権型アカウントベース、中央集権型トークンベース、そして共有アカウントベースの3つの台帳設定で行われた。15 フェーズ1では、日本銀行はより伝統的なデータベース構造に依存していた。16 システム・パフォーマンスのテストのため、各台帳は5つの仲介機関を通じて10万人のユーザーが、一秒間の間に500から3000件の取引を行うというシミュレーションを行った。17

概念実証フェーズ2は2022年4月に始まり、2023年3月にかけて行われた。18 フェーズ1と同じ実験環境を用いて、日本銀行は「技術的な課題をできるだけ早期に確認することが望ましい」と考え、「追加機能を検証」した。19 フェーズ1から3つの台帳設計を追加し、第2フェーズでは、日本銀行も共有トークンベースの台帳設計も検証した。20 フェーズ2では、フェーズ1で使用されている各台帳設計に対して同じ性能テストを実行し、追加機能と新技術の使用による影響を評価した。21

フェーズ2では、CBDCの「追加機能」の「3つの異なったブロック」を検証した。22 第1のブロックは、「経済デザイン」であり、「銀行預金からCBDCへの急激な移行を未然に防ぐための様々なタイプのセーフガード」を検証したもので、保有制限、取引額、取引回数、超過価格の自動換算、保有額に対する金利の適用などが含まれている。23 第2ブロックでは、「利用者の決済の利便性」を向上させるため、定期送金、複数送金の一括実行、そして支払依頼送金など、「決済の利便性向上」を検討した。24 第3ブロックでは、1人のユーザーによる「複数口座」の利用、「ユーザーごとの保有額・取引額」の制限、代替的な外部システム接続方法など、「仲介業者の連帯や外部システムとの接続機能を検証した。25

新機能に加え、フェーズ2では新技術がCBDCの性能に与える影響についても試験を行った。フェーズ1で使用された「伝統的なリレーショナルデータベース」の代わりに、フェーズ2では、新しく「人気が高まっている」NoSQLデータベース設計が実験的に使用された。26 日本銀行はまた、「トークンの額面価値を変化させ必要に応じてトークンの統合や分割を行うフレキシブル・バリュー・トークンモデルを検討した」。27 これは、「トークンの額面価値を固定し、必要に応じてより価値の低いトークンに変換する」、「固定バリュー・トークンモデル」とは異なるものである。28

フェーズ2は得るところの多い成功を収めた。日本銀行は、「トークンベース台帳の「機能上の優位性」は、トークンに対する「フレキシブル・バリュー・アプローチ」によって「より容易に活用できる」一方で、「アカウントベースモデルと比較して、リソース要件や追加機能の実装の難易度が高まる可能性がある」と判断した。29 追加機能や新技術の導入にかかわらず、「どの追加機能もパフォーマンスを著しく低下させるものではなく、社会実装に必要な拡張性や信頼性を確保できる」。30

つまり、日本銀行は「CBDCの基本機能の技術的な実現可能性を確認した」31とし、現在、実証実験を開始している。

        b. 2部構成の実証実験

日本銀行は、2023年4月に実証実験を開始した。32 実証実験は、追加実験の実施と制度設計の検討の2つから構成されている。33

実証実験では、「中央システム、中間ネットワークシステム、仲介システム、エンドポイントデバイスが統合された形で構成される実験のためのシステム」を開発する。34 また、特に「実験システムを外部システムと接続に向けた対応策や潜在的な課題を探求しながら、エンドツーエンドの処理フローをテストする」。35 極めて重要なことは、実証実験は、「プログラムにおいて消費者との取引」を一切想定していないことである。36

CBDCの本格的導入に必要な制度的準備を確立するため、実証実験には「CBDCフォーラム」が含まれ、関係者が「リテール決済に関連する民間事業者と広範なテーマについて議論し検討する」。37 議論のトピックとしては、「仲介業者の業務プロセス」、「CBDCシステムと外部システムとの接続」、そして「オフライン決済」への対応などがある。38

CBDCフォーラムの参加者は、2023年7月末までに発表され、その後、同フォーラムが開始される予定である。39

  III. 将来への影響

デジタル円の導入に向けた日本の前進は、デジタル資産や金融技術だけでなく、CBDCの導入にとっても画期的な出来事である。

2020年5月の時点では、CBDCの検討をはじめたのはわずか35カ国であったが、現在、「世界のGDPの95%に相当する114カ国がCBDCを検討している」。40 この114カ国のうち、11カ国が「デジタル通貨を完全に開始しており」、18カ国だけが実証実験に達している。41 しかし、これらのCBDC導入は普及には至ってない。CBDCである「eNairaを使用しているナイジェリア人は0.5%未満」あり、CBDCを試験的に導入した最大の経済国である中国でさえ、CBDCであるe-RMBは「発行されているマネタリーベースの0.13%」を占めるに過ぎない。42 しかし専門家は、日本のような「主要欧米経済による更なる近年の活動」が、CBDCを立ち上げるオプション性を持たせることへの関心」を高める動機になるかもしれないと予測している。43

近年、デジタル資産や分散型台帳技術の利用が飛躍的伸びている一方で、主流消費者の乗り換えはやや限定的である。デジタル資産は「ほとんどの国で高度に規制されている貨幣の領域」に関わるため、規制が明確でないことが普及を妨げているという意見もある。専門家は、「大量導入」には「政府機関、規制対象金融機関、大企業の支援」が必要であると予測している。44 そのため、CBDCの開発と導入は、政府公認のデジタルマネーを何十億人ものユーザーの「日常的な活動」の手に渡すことで、デジタル資産を主流にする可能性を秘めている。45

以上をまとめると、CBDCの導入と利用を進める世界第3位の経済大国である日本の前進は、数十億人の人々が国内外にてCBDCで数兆ドルもの取引を行う将来に向けた重要な一歩である。CBDCの普及がもたらす存在的なメリットは相当なものだが、かかるグローバル決済構造の根本的な変更には、「法的なインフラ」を「仕立て直す」ことが求められ、「グローバルな商取引と金融が運営されるための全く新しい一連のレールを提供することになる。46

Kilpatrick Townsendのデジタル資産規制ブログ

Kilpatrick Townsendのデジタル資産規制ブログ (DARB)は、デジタル資産(暗号通貨、ステーブルコイン、トークナイゼーション、および中央銀行デジタル通貨(CBDC))や分散型台帳技術(DLT)の規制、開発、管理の様々な側面、および関連するトピックを取り上げています。詳細については、Digital Assets Regulation (kilpatricktownsend.com)のウェブサイトをご覧ください。

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Footnotes

CBDCとデジタル資産全般に関する詳細は下記参照., Stephen Anstey, “A Brief Primer on Cryptocurrencies, Stablecoins, Tokenization, and Central Bank Digital Currencies, Digital Assets Regulatory Blog (DARP), April 3, 2023, A Brief Primer on Cryptocurrencies Stablecoins Tokenization and Central Bank Digital Currencies (kilpatricktownsend.com).
Citi GPS, “Money, Tokens, and Games,” p. 24; but see Kumar, Brownstein, et. al.,“Central Bank Digital Currency Tracker,” Atlantic Council, Accessed June 9, 2023, Central Bank Digital Currency Tracker – Atlantic Council, シンセティックCBDCアーキテクチャーとは、「中央銀行に対する直接的な債権を持たない」アーキテクチャーであり、むしろ 「債権は決済やリアルタイムの取引を促進する民間金融機関の負債である」アーキテクチャーと定義している。このアーキテクチャーは、CBDC を検討している国ではまだ採用されておらず、ここでは関係ない。
U.S. Dept. of the Treasury, The Future of Money and Payments, p. 19 (2022).
Kumar, “Central Bank.”
White House Office of Science and Technology, Technical Evaluation for a U.S. Central Bank Digital Currency System, Sept. 2022, p. 34, 09-2022-Technical-Evaluation-US-CBDC-System.pdf (whitehouse.gov).
6 See id.
7Citi GPS, “Money, Tokens, and Games, p. 26.
For a more in-depth look at digital assets, see gen., Stephen M. Anstey, “The State of Digital Assets Regulation and Foundational Terminology (Crypo, Stablecoin, and CBDC),” Jan. 3, 2023, The State of Digital Assets Regulation and Foundational Terminology (kilpatricktownsend.com).|
Citi GPS, “Money, Tokens, and Games,” p. 13.
10 Id. at p. 24.
11 See Norbert Gehrke, “The Bank of Japan’s Framework for Participation in the CBDC Forum,” Medium, March 24, 2023, The Bank of Japan’s Framework for Participation in the CBDC Forum | by Norbert Gehrke | Tokyo FinTech | Medium.
12 See Payment and Settlement Systems Department, Bank of Japan, “Central Bank Digital Currency Experiments Results and Findings from ‘Proof of Concept Phase 2’” (May 2023), p. 1, dig230529a.pdf (boj.or.jp).
13 See id.
14Id.see also Payment and Settlement Systems Department, Bank of Japan, “Central Bank Digital Currency Experiments Results and Findings from ‘Proof of Concept Phase 1,’” (May 2022), rel220526a.pdf (boj.or.jp).
15 See Payment and Settlement, “Proof of Concept Phase 2,” p. 3.
16 See id.
17See id. at p. 7.
18 See id. at p. 1.
19 Id. at p. 1.
20 See id. at p. 3.
21 See id. at p. 7.
22 Id. at p. 4.
23 Id. at p. 2, 4.
24 Id.
25Id. at p. 2.
26 Id.
27 Id.
28 Id.
29 Id. at p. 24.
30 Id.
31 Id.
32See Bank of Japan, “Commencement of Central Bank Digital Currency Experiments: Pilot Program,” Feb. 17, 2023, dig230217b.pdf (boj.or.jp).
33 See id. at p. 1.
34 Id.
35 Id.
36 Id.
37 Id.
38 Id. at p. 3
39 Gehrke, “Framework for Participation.”
40Kumar, “Central Bank.”
41 Id.
42 Citi GPS, “Money, Tokens, and Games,” p. 28.
43 Id. at p. 33 (also specifically suggesting Europe’s interest as a motivator).
44 Id. at p. 9.
45 Id.
46 Id.

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