ケイマン諸島は世界有数のオフショアファンド法域です。2023年時点でのケイマン諸島における登録ファンド数は約29,500で、ケイマン諸島籍ファンドは、全世界の米国籍以外のファンド全体の68%を占めています。
かかる成功は、ケイマン諸島が国際的な基準である欧州連合および金融活動作業部会(FATF)に準拠するために、近年大きく変化した規制環境が背景にあります。
プライベートファンド法(2021年改正)(以下「PFA」)は、プライベートエクイティ、不動産、ベンチャーキャピタル、インフラ及びプライベートクレジットファンドを含むケイマン諸島籍クローズドエンドファンドを「プライベートファンド」として規制しています。PFAは、ケイマン諸島金融庁(CIMA)が発令する指令である規則や、プライベートファンドの運営に関する有用な推奨事項を規定するガイダンス声明を含むその他の規制措置によって補完されています。またケイマン諸島プライベートファンドは、包括的なマネーローンダリング/テロ資金供与対策(AML/CFT)体制を遵守する必要があります。これらの措置は、2020年のPFA の導入によりケイマン諸島籍クローズドエンドファンドが初めて規制された以降の大きな進展を示しています。
PFAの導入以降、プライベートファンドに関する数々の規制の進展がありました。すなわち、PFA上のCIMA登録義務に加え、以下の事項に関する規則やガイダンスが導入されています:
- ファンド資産の評価(年1回以上)
- ファンド資産の保管:プライベートファンドがすべてのファンド資産に対して検証可能な権利を有していることの確認
- キャッシュモニタリング:投資家から受領した現金の適切な記録が必要
- 資産の分離:プライベートファンドの資産と負債は、運営者および/または投資運用者の資産から分離されることが必要
- 有価証券の識別:ファンドは取引する有価証券の識別コードの記録を維持することが必要
CIMAは近時、企業ガバナンスと内部統制に関する規則とガイダンス声明を施行し、プライベートファンドの「運営者」または「統治機関」に、ファンド事業を健全且つ慎重に管理および監視し、利害関係者の正当な利益を保護する企業ガバナンスの枠組みを確立、実施および維持する義務を課しました。かかる枠組みは、ファンドの規模、複雑性、ストラクチャー、事業の性質およびリスクプロファイルに応じて異なります。かかる義務はファンドの法形態に応じて、リミテッドパートナーシップのジェネラルパートナー、ユニットトラストの受託者または会社の取締役会に直接課されます。
ファンド運営者にとって、投資運用者ではなくファンドレベルにかかる企業ガバナンスの義務が課されることは驚きかもしれません。多くの投資運用者は、適用規制上の義務を遵守するために特定の対応をしているかもしれませんが、これらのファンドへの適用は慎重に検討する必要があり、上記ケイマン諸島におけるガバナンス義務との間にギャップがあれば、適切な対応が必要です。
CIMAは、プライベートファンドがこれらの措置を高いレベルで遵守することを期待しており、強固な規制フレームワークを確保し、健全な金融システムを促進することを目指しています。世界有数のオフショアファンド法域のケイマン諸島でプライベートファンドを運営することには大きな利点がありますが、ファンド運営者はCIMAによる行政罰や執行措置を回避するため、その規制義務を遵守するための手続を講じる必要があります。
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