クロスボーダー取引のリスク - そして紛争の増加
企業法務部のライフサイエンス担当者が注視するのは、インフレと資本コストの増加でしょう。パネリストは、現在の市場動向がライセンス供与、M&A及び日々の業務契約に与える影響、並びにライセンサーとライセンシー間の評価差が拡大しつつあることについて議論しました。細胞治療、遺伝子治療、及びその他の個別化医療等の、基礎となる技術が複雑化しながらも広く受け入れられるのに従って、これらを取り扱うクロスボーダー取引も、その中核となるライセンス条件及び金銭的条件等に関してより複雑になっています。例えば、パネリストは、特に開発スケジュールがそれほど進んでいない製品については、評価の当事者間ギャップを縮め、商業化リスクを管理するためには、当事者が一層創意を凝らす必要があることについて議論しました。さらに、共同研究を含む取引には、紛争の可能性が常にありましたが、APAC、EU、英国、米国の全域における最近の傾向では、より強い主張を戦略的に採用する訴訟が顕著となっています。
LS&HC Horizons 2023 – Flipbook – Page 31 (hoganlovells.com)
法改正がライセンス供与に及ぼす影響
ライフサイエンス企業間の共同研究契約及びライセンス契約は、バイオ医薬品のライフサイクル全期間に及ぶことが多いことから、法改正が、既存及び将来の契約に影響を与える可能性があります。米国の2022年のインフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022(IRA法))並びに欧州の新しい単一効特許及び統一特許裁判所制度(UPC)はその代表的な例であり、パネリストはこれらの新制度が取引構造に与える潜在的な影響について議論しました。しかしながら、パネリストは、法律上の問題は非常に複雑になる可能性があるものの、それらに対応する契約条項は複雑である必要はないことを解説しました。取引当事者は、取引期間中の法令及び行政規制の変化に伴うリスクを軽減するために、多くの場合、実用的な手段を講じることができます。
Impacts of the U.S. IRA on licenses and collaborations – Hogan Lovells Engage, Panelists discuss why IP lawyers should care about the IRA – Hogan Lovells Engage, To opt out or not to opt out, that is the question……… - Hogan Lovells Engage, Unified Patent Court (UPC) lawyers and the Unitary Patent (hoganlovells.com), Spring cleaning: a transactional check-up for life sciences companies – Hogan Lovells Engage
EU薬事関連規制法案について
EU委員会(EC)による最近の提案は、薬事データ保護期間(RDP)、希少疾病用医薬品市場独占期間(OME)、及び医薬品承認における小児用製品への拡大による独占期間延長に関するインセンティブ・スキームを大幅に変更することになるでしょう。また、かかる提案は、販売承認取得者(MAH)による環境リスク評価、及びサプライチェーンの安全性を高めることで、医薬品不足に対処する解決策も規定しています。最終的な立法承認及び施行に先立ち、何等かの政策提言が行われることが予想されるため、決議は遠い将来のように思われるかもしれませんが、なぜステークホルダーがこれらの進捗状況に今から注意を払うべきかについてパネリスト討議をしました。具体的には、手頃な価格の医薬品へのアクセスを確保し、アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)分野を含むイノベーションを促進する等の目標が掲げられ、提案されている標準的な保護期間を延長するための条件設定(往々にして複雑なものではありますが)がないことから、多くの医薬品について、その独占権が根本から縮小する可能性が高くなっております。規制当局による独占権の保護期間の短縮は、開発パイプラインにも適用される可能性があります。パネリストは、新規則が現在開発中の製品に適用されるか否か、また適用された場合、規制上の独占権、及び予想されるジェネリックまたはバイオシミラー医薬品との競合について、どのような影響があるのかを議論しました。
LS&HC Horizons 2023 - Flipbook - Page 64 (hoganlovells.com)
ヒト由来物質(細胞及び遺伝子治療用等)
ヒト由来物質に関するEU法案(SoHo規制)は、(i)血液、(ii)組織及び細胞に関する現在の2つの別々の法的枠組を置き換えるものです。科学の発展に対応し、EU全域でヒト由来物質に関する規制要件をさらに調和させることを目的とする一方で、この法案においては、追加の規制要件も導入されています。これらは、例えば血漿由来医薬品及び先進治療医薬品(ATMP)の製造に関連するものです。
Regulation of stem cell use in the EU - Hogan Lovells Engage; Regulation on Substances of Human Origin (SoHO Regulation) Proposed - Hogan Lovells Engage]
欧州市場へのアクセスの動向
当該EU薬事関連規制法案は、すでに加盟国間でハーモナイズした要件を変更するもので、EU加盟国域の医療制度の多様性に鑑みると、価格決定及び償還払に関する共通の枠組を構築することはより困難でしょう。医療技術評価(HTA)に関するEU共通の法的枠組の採用は、この方向性における第一歩ですが、その影響力は未だ明らかではありません。しかし、ポジティブリスト及びネガティブリストの利用、参照価格のバージョンの違い等、薬価設定及び償還払に関しては、国家間の大きな差異は今後も変わらないことが予想されます。企業は、早い段階で、将来上市する可能性のある欧州各国を含めた、欧州全体の価格設定及び医療費払戻の戦略を策定する必要があります。例えば、ある市場で合意された価格が、他の市場に与える影響を理解することが重要です。また、英国だけでなく、フランス及びドイツ等、早期アクセスを認めている国々に関する戦略を検討することも重要です。さらに、上市の順序の決定は、現地の償還払に基づく支払いが、どの国において迅速かつ早期に得られるかに左右される可能性があります。
JPM2023 Trendspotting: successful early access in the EU - Hogan Lovells Engage
IRA法施行後の米国市場へのアクセス
グローバルな製薬会社は、IRA法対策のために米国市場へのアプローチ方法を変えつつあります。高齢者医療保険(メディケア制度)の年間売上高が少なくとも2億米国ドル以上見込まれる、複数の償還元がある製品のメーカーは、IRA法が上市に与える影響に取り組むことを余儀なくされています。これには、上市のタイミングに新たな焦点を当てることが含まれ、新薬承認申請(NDA)または生物製剤承認申請(BLA)の提出時期を、IRA法の時間枠を最大限に活用できるように管理することから始まり、製品がFDAに初めて承認された後の「1日目」に、完全に練られた価値活用戦略とともに完璧に上市できるように準備することにわたります。パネリストによる討議の最後では、新しいIRA法メディケア制度・パートB及びパートDにおけるインフレ・リベート制度、IRA法パートD再設計に基づき今後増加する製造者責任の概要が説明されました。
Inflation Reduction Act’s Drug Price Negotiation Program explained - Hogan Lovells Engage, Inflation Reduction Act’s Medicare Part B and D inflation rebates explained - Hogan Lovells Engage, Inflation Reduction Act’s Medicare Part D benefit redesign explained - Hogan Lovells Engage, CMS issues Medicare Part B and Part D inflation rebate guidance - Hogan Lovells Engage, CMS issues initial guidance on Drug Price Negotiation Program - Hogan Lovells Engage, JPM2023 Trendspotting: portfolio valuation in the aftermath of the IRA - Hogan Lovells Engage, Impacts of the U.S. IRA on licenses and collaborations - Hogan Lovells Engage
製薬業界における未来のデジタル環境とAIの影響
今後を見据えて、パネリストはAI及びデジタルヘルスのトレンドについて議論し、患者の選択肢全般において、デジタル上の支援がどのように実施できるかについて見解を述べました。将来、欧州におけるデジタル環境は、最近施行された多数の規則、提案されているAI法、欧州ヘルス・データ・スペース(EHDS)、及びデータ法によって導かれることになりますが、米国及び英国は、欧州とは対照的な(そして潜在的に、より規定的ではない)アプローチをとっています。パネリストはまた、デジタル上のプロジェクト及び取引において特有な性質に関する考察も共有しました。医療データに関して言えば、製薬とテクノロジー/データ環境の融合は、新たな挑戦的課題をもたらす可能性がある一方で、リスクを適切に管理できれば新たな機会を創出できると指摘しました。パネリストは、製薬の未来を牽引し、AIツール促進するため、データ活用の重要性を強調しました。新しく、革新的な方法でデータを収集、分析、利用する能力は、新しい治療法の開発、患者の治療結果の向上、コスト削減に不可欠であると指摘しました。また、患者のプライバシー保護を確実にするため、慎重なデータ管理の必要性についても議論しました。
Unraveling the complexities of collaborations between pharma companies and digital therapeutic start-ups - Hogan Lovells Engage, EU AI Act to regulate generative AI among other key changes – Hogan Lovells Engage, The UK’s bid to be at the centre of a global AI regulatory framework – Hogan Lovells Engage, LS&HC Horizons 2023 – Flipbook – Page 20 (hoganlovells.com) , LS&HC Horizons 2023 – Flipbook – Page 25 (hoganlovells.com), LS&HC Horizons 2023 – Flipbook – Page 26 (hoganlovells.com)
Next steps
今後の課題
APACのライフサイエンス・ステークホルダーは、自社の救命治療へ患者の関わり合いを最適化するために、地域毎の多様な違いについて注意深く検討しなければなりませんが、早期に計画を立てることの重要性に地域差はありません。当事務所のライフサイエンス・ヘルスケア分野を専門とする弁護士グローバルチームは、APAC地域、EU加盟国、英国、米国、及びその他の地域にわたって緊密に連携し、戦略的、商業的なサービスを提供し、クライアント固有のニーズに合わせたアドバイスを提供しております。
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執筆者:フレデリック・チェン博士、メリッサ・ビアンキ、ペニー・パウウェル、カレン・テイラー、へイン・ファン・デン・ボス