多忙な社内弁護士やコンプライアンスの専門家に全体像を掴んでいただくため、7月の国際的腐敗行為に関する事件の展開のうち最も重要なものについて、要約と、一次情報源のリンクを提供する。米司法省(DOJ)刑事局を率いるのは誰か。近時の米最高裁判例に基づき時効成立として却下されたFCPA執行に係る訴えとは。汚職容疑でブラジル当局と和解した洋上石油会社は。その答えはこの2018年7月の10大ニュースの中にある。
1. DOJ刑事局の新司法次官補の指名承認 2018年7月11日、Jeff Sessions司法長官は、上院が刑事局新司法次官補(AAG)Brian Allen Benczkowski氏の指名を承認したことを発表した。FCPAの刑事エンフォースメントは刑事局詐欺部の専権事項であるため、この承認は、腐敗行為防止に関わる者にとっては特に重要である。公判検事ではなかったものの、Benckowski氏はDOJ内の他のポジションで経験を積んできた。2008年から2009年まで、司法長官室や司法副長官室の統括官を歴任し、また、刑事法制課主席副司法次官補、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局統括官、DOJ法政策室事務局長兼シニアカウンセルも務めた。Benczkowski氏は、当初2017年6月にAAGに指名されたが、弁護士時代に、ロシアの銀行を代理したとの民主党の懸念により、その指名承認は引き延ばされていた。最終的な投票は終了し、民主党上院議員1名のみが反対した。トランプ政権下のこれまでのDOJ官職の任命と同様、Benczkowski司法次官補の指揮下で、FCPAエンフォースメントが優先事項ではなくなると考える理由はない(例えば、2016年11月のJeff Sessions司法長官の指名や2017年4月のRod Rosenstein司法副長官の指名承認)。
2. FCPA違反企業に対する執行方針が買収後の会社に適用されるとDOJ高官が発言 DOJ刑事局司法副次官補(DAAG)Matt Miner氏は、2018年7月25日のワシントンD.C. 講演において、M&A関連でも2017年11月に発表されたFCPA違反企業に対する執行方針の適用があることを力説した。とりわけ、Miner氏は、「M&Aに関連して不正行為が発見され、その後当該不正行為を開示するとともに協力を提供することは、FCPA違反企業に対する執行方針の条件に合致しており、DOJとしては承継会社に本方針の原則を適用するつもりであることをはっきりと示した」。換言すると、「不正行為を焙りだす徹底したデューディリジェンスを行い、当該行為をDOJに報告し、かつ是正措置(被買収会社における強固なコンプライアンスの実施など)を行っている買収会社」は、本方針の恩恵を受ける資格があるということである。状況によっては買収前に徹底したデューディリジェンスを行うことができない場合があることを認めたうえで、Miner氏は、買収後のデューディリジェンスの際にかかる行為が発見された場合にも本方針が適用される点も強調した。Miner氏はまた、最後にこの手続きが利用さたのは2014年であったことを述べ、FCPA意見確認手続を利用するよう企業に奨励した。2014年の手続きでは、DOJは、M&Aデューディリジェンス中に対象会社による不適切な資金供与の可能性を発見した多国籍企業に対してはエンフォースメント手続を行わないという意向を表明した。(詳細については、クライアントアラートをご参照ください。)Miner氏の発言は概ね歓迎すべき内容であったが、いくつかの疑問も残している。Miner氏が講演の最初の方で指摘したように、FCPA違反企業に対する執行[方針]に基づく不起訴処分は、「不正利得の吐き出し(ディスゴージメント)を条件」とする。Miner氏の発表は、買収会社は常に、DOJに報告した買収前の不正行為について利益を「吐き出す」必要があることを意味するのだろうか。そうであれば、これは、過去の慣行から幾分逸脱している。DOJはこれまで、(常にではないものの)このような不正行為についてのエンフォースメント手続を追及することを完全に見送ることが多かった。実際、Miner氏が引用した2014年の意見確認手続では、DOJは、エンフォースメント手続を追及しないという決定に対し、買収会社又は対象会社が不正利得を吐き出すことを条件としていない。とはいえ、M&Aに関連するDOJのエンフォースメント方針を明確にしたこの取組みは歓迎すべきであり、買収会社が買収前及び買収後にデューデリジェンスを行い、早急に対象会社を買収会社のコンプライアンス・プログラムに統合することの重要性を明らかにしたものだ。
3. 連邦判事、ヘッジファンド元役員に対するFCPA手続を却下 2018年7月12日、ニューヨーク州東部地区連邦地裁のNicholas G. Garaufis判事は、時効成立を理由に、Och-Ziff Capital Management LLC.の元役員2名(Michael L. Cohen氏及びVanja Baros氏)に対するSECの執行に係る訴えを却下した。2017年1月、SECは、Och-Ziff及び子会に、アフリカの数カ国の公務員に対する賄賂を支払わせた疑いで、FCPAに基づきCohen氏とBaros氏を提訴したと発表した。本件を却下するにあたり、Garaufis判事は、SEC v. Kokesh 事件における連邦最高裁の2017年6月判決に依拠した。同判決で、SECのディスゴージメント手続は、28 U.S.C. § 2462に定める5年の消滅時効[出訴期限](「民事制裁金、民事罰又は没収」を求める行政行為に適用される)の対象であるとされた。同判事は、Kokesh判決を拡大適用し、請求された差止命令は、「少なくともある意味では被告を罰する機能を果たし、それゆえ[行政]罰といえる」から5年の時効は、SECのCohen氏及びBaros氏に対する訴えに適用され、その無効取消原因となると結論付けた。Cohen事件は、FCPA関連では最初であっても、SECの執行に係る訴えに対するKokesh判決の効果に取り組んだ最初の事件ではないKokesh判決がSECの執行に与える影響について審理が行われた最初の事件ではない。2017年12月、ニュージャージー州地区連邦地裁は、Kokesh判決の適用を拡大して、「法令遵守(obey the law)」(作為的)差止と「低額株の禁止」を求めた訴えを時効成立として却下している。対照的に、2017年6月、第8巡回区連邦控訴裁は、Kokesh事件は「法令遵守」(作為的)差止に適用されないと判示した。このように、裁判所がどのようにKokesh判決を適用するかについて対立が表面化しているようであり、最終的には最高裁に判決の再考を求める可能性もある。より直接的には、SECの主張は時機を失していたか否かというCohen事件の争点で中心となったのは、当該事件におけるSECの時効停止合意(tolling agreement)の条件であった。これは、SECが、FCPAその他の調査において企業や個人から広範囲の時効停止合意を求めるにあたって、より慎重になることを示唆している。
4. スイスの銀行とその香港子会社が雇用慣行が関係するFCPA違反容疑について和解 2018年7月5日、SEC及びDOJは、Credit Suisse Group AG(「クレディスイス」)とその香港子会社が、2007年から2013年までに、中国の公務員の友人や親族を採用したり昇進させたりすることで中国国有企業との銀行取引を獲得するスキームに当該子会社が関与した容疑について和解に同意したと発表した。子会社は、この実務慣行により4,600万ドル以上の利益を得たとされる。DOJとの3年間の訴追免除合意(NPA)の一環として、子会社は、約4,700万ドルの罰金の支払いに応じ、SECによる行政上の排除措置命令の一環として、親会社は、ディスゴージメント2,490万ドルのと延滞利息480万ドルの支払いに応じた。これは、2016年11月の「息子と娘(Sons and Daughters)」事件以来の縁故採用に関する和解事案である。しかし、これが最後とならない可能性がある。2015年8月の10大ニュースで述べたとおり、報道によると、この数年間、SECは金融サービス業界の採用慣行を徹底的に調査している。この和解は、採用、インターンシップ、研修プログラムは米国のエンフォースメント機関が引き続き重点的に取り組む分野であることから、企業は今後も慎重を期すべきであることを示す直近の例となる。
5. シカゴの蒸留酒メーカー、インドにおけるFCPA違反容疑について和解 2018年7月2日、SECは、2006年から2012年まで、「受注、処理加工許可及びラベル登録の増加、[会社の]蒸留酒製品販売の円滑化」を目的として、インド子会社が公務員に対し不適切な資金供与を行った容疑について、Beam Suntory Inc.が、520万ドルのディスゴージメント、917,498ドルの審理前利息及び200万ドルの民事制裁金を支払うことに同意したと発表した。SEC命令によると、この行為はFCPAの会計条項違反とのことである。同社は、容疑の認否は明らかにしていない。これと並行した和解がないことと民事制裁金が課されたことを踏まえると、DOJはおそらく、親会社を贈賄罪で起訴するための管轄権が存在しないことを理由に、不起訴処分としたようである。
6. 汚職容疑のオランダの石油・ガス会社がでブラジル当局と合意 以前にお伝えしたとおり、オランダの洋上石油・ガス会社SBM Offshore N.V.は、贈賄の見返りとしてペトロブラスから契約を取り付けた容疑について、2016年7月に複数のブラジルの政府機関との間で処分減免(リニエンシー)についての合意に至った。ところが2016年9月2日に、SBM Offshoreは、ブラジル連邦検察局第5室がリニエンシー合意を却下したと投資家らに伝えた。その後2017年11月、SBMと子会社は企業として、2億3,800万ドルの罰金の支払いなどについてDOJと合意した。DOJのプレスリリースによると、DOJは、「ブラジル連邦検察省(Brazilian Ministerio Publico Federal(MPF))への支払予定罰金額」などをDOJに支払われたものとみなして罰金額を算定した。2018年7月26日、ブラジル連邦総監督省(Ministry of Transparency(CGU))は、SBMが、CGU、ブラジル連邦総弁護庁(Attorney General’s Office(AGU))及びペトロブラスとのリニエンシーに合意したと発表した。この合意に基づき、SBMは総額約1億8,900万ドルの罰金を支払うことになるが、MPFはこの合意の当事者に含まれていない。
7. ベネズエラの元公務員、贈賄スキームにおけるFCPA違反及びマネーロンダリングについて有罪答弁。 2018年7月16日、DOJは、Luis Carlos De Leon-Perez氏(ベネズエラの元公務員で、米国とベネズエラの二重国籍を保持)が、テキサス州南部地区連邦地裁で、ベネズエラの国有エネルギー会社Petroleos de Venezuela S.A.(PDVSA)の職員に賄賂を贈るためのスキームにおける役割に関し、FCPA違反の共謀罪の訴因1件及びマネーロンダリングにおける共謀罪の訴因1件について有罪答弁を行ったと発表した。有罪答弁合意書によれば、2011年から2013年の間、De Leon氏は他の者と共謀して、PDVSA事業の見返りに賄賂やキックバックを支払うようPDVSAの業者に促していた。De Leon氏は、一連の金融取引を通じて賄賂を隠匿するための国際的なマネーロンダリングスキームについても認めた。De Leon氏への判決言渡しは2018年9月24日に予定されている。DOJによるPDVSA贈賄事件の捜査に関連して、これまでに12名が有罪答弁を行っている。(2018年2月及び2018年4月のPDVSA捜査に関する当事務所の直近の記事をご参照ください。)
8. ベネズエラの国営石油会社からの横領資金のマネーロンダリング容疑で8名が起訴。 2018年7月25日、DOJは、フロリダ州南部地区連邦地裁で、贈賄及び詐欺によるPDVSAから横領した資金のマネーロンダリングの共謀罪で8名(「元PDVSA職員、第三者たるマネーローンダリングのプロ、また、ベネズエラのエリート」と称される)が起訴されたと発表した。被告人のうち2名、Matthias Krull氏及びGustavo Adolfo Hernandez Frieri氏は上記容疑で逮捕されたが、残りの被告人は未だ逃走中である。訴状によると、このマネーロンダリングスキームの背後には、米国内外の資金運用会社、証券会社、銀行及び不動産投資会社が存在しており、スキーム全体がマネーローンダリングのプロのネットワークとなっていた。
9. 米国フロリダ州・スペインのメディア企業、国際的なサッカー連盟の捜査関連の容疑について和解。 2018年7月10日、DOJは、US Imagina, LLC(「US Imagina」)が、有線通信不正行為の共謀罪の訴因2件について有罪答弁を行ったと発表した。この事件では、カリブ海サッカー連合(Caribbean Football Union(CFU))及び中央アメリカの4カ国の全国サッカー連盟の幹部に対し、ワールドカップ予選のメディア・販売権の見返りに、賄賂として650万ドル以上が支払われたとされるスキームに、US Imaginaの上級幹部2名(及びスペインの親会社の上級役員)が関与したとされる。このスキームへの幹部の関与に関連して、US Imaginaのスペインの親会社であるImagina Media Audiovisual SL(「Imagine Media」)は、DOJとNPAを締結した。有罪答弁合意に基づき、US Imaginaは、刑事没収530万ドルのほか、CFU及び複数の中央アメリカ全国サッカー連盟に対し、損害填補として総額660万ドル以上を支払うことに同意した。また、US Imaginaは、罰金1,290万ドルの支払いにも同意している(これについては、NPAに従って、Imagina MediaがUS Imaginaに代わって支払うことに同意)。
10. ニュージャージー州のエンジニアリング・建築・建設管理会社とのDPAの終了 2015年7月、Louis Berger Internationalは、インド、インドネシア、ベトナム及びクウェートにおいてFCPAに違反して外国公務員に贈賄を行った容疑について、DOJと3年間のDPAを締結した。ニュージャージー州地区連邦地裁のMark Falk治安判事は、2018年7月24日付の決定において、DOJの「訴追請求状却下が相当か否か国が審理するために」6カ月の継続を求める申立てを認めた[1]。DOJの申立ては、DPAの期間満了から6カ月以内に会社に対する刑事訴追請求状の取下げを申し立てるとしたDPAの条件と合致している。したがって、継続は必ずしも、会社がDOJから、ほかにも不正行為に関与している、その他DPAの条件を遵守していないという嫌疑をかけられているというわけではない。他の事件では、そのような理由による期間延長の申立てが行われているが、そうでなくとも、本件などの場合においては、DPA及びこれに伴う決定で定められた延長期間には、DPA又はNPAが終了してから初めて問題が表面化することがあるというDOJの経験が反映されているのである。
[1] United States v. Louis Berger International, Inc., Mag. No. 15-3624 (MF), ECF No. 10 (D.N.J. 2018年7月24日)。
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